2012/05/11

vol.3寄稿者紹介03(久保憲司さん)

歌舞伎町にはじめて遊びにいったのはいつだったろう? たぶん中学生のころ、映画を観たのが最初。近年はすっかり足が遠のきましたが...。その歌舞伎町にリキッドルームがあったころ(CLUB SNOOZERで生レイ ハラカミの演奏を見たなぁ)、カメラマンの久保憲司さんと一緒に仕事をしたことがありました。

時が流れ、まさかウィッチンケアで小説家・久保さんの編集担当者をする日がくるとは思いもしませんでした。「ロックの神様」や電子書籍「ロックの闘争」のクボケンさん。著書を読んで心地好いのは、「音楽としてのロック」じゃなく「自身の体験としてのロック」を語っていく、他の人には醸し出せない軽妙さと力強さ。ずっとファンでしたから、あの語り口の小説が生まれたらどんなに楽しいだろう、と思って寄稿依頼したのです。

掲載作品「僕と川崎さん」は作者の自伝的な要素も窺える、過去と現在が錯綜する小説。“僕”と“川崎さん”の関係は「オン・ザ・ロード」(J・ケルアック)をベースに構築されているようで...しかし、川崎さんは不思議な人物。なにか大きなことをやり遂げる人に共通する、規格外な雰囲気で描かれていて。そして2011年の反原発デモの熱気も伝わってきます。まだまだ、先が読みたくなる物語なので、ぜひよろしくお願い致します、久保憲司さん!


 たぶんバブルだったのだろう。ウイリアム・バロウズの作品などもどんどん新訳で発売されていた。僕は何とかバロウズは買っていたのだが、トマス・ピンチョンまでは手が回らなく、これは短編だからと毎日本屋に行って、一編ずつ読んでいた。そんな苦労をしているのに、川崎さんは待ち合わせの場所で、いつも最新の小説を読みながら、能天気にアイスコーヒーなんかを飲んでいたりするのだ。
「お金もないはずなのに、何で買えるの?」と聞くと、「借りたんだよ」と言う。
「えっ、でもバロウズとかピンチョンの本は図書館にないでしょう。それにその本ビニールに被われてないじゃん。どこからだよ」
「うるさいな。本屋からだよ」
「えっー、それって、万引きじゃん。あの、前に『電池を買った事ない』って言っていたのも万引き? 30歳にもなって、何やってんだよ」
「万引きなんかしてないよ。借りてるだけだよ。読んだらちゃんと返しているよ。お礼にわざわざ押し花のしおりを入れて返しているんだぞ」
「押し花のしおりって、何だよ。新刊の本に押し花が入っていたら、気味悪がるよ」
「何言ってんだよ。喜ぶよ。こっちは苦労して、四葉のクローバーを見つけて、押し花にして入れてんだぞ。幸福を呼ぶ本だぞ」
「幸福なんか呼ばねぇよ。本は返せるとして、電池はどうしてるんですか。空の電池返してもらっても仕方がないでしょう」
「バカ野郎、単3を借りたら、単2にして返しているよ。倍返しだよ」
「そんな事されても、棚卸しの時に迷惑なだけだよ」
 本や電池以外にもそういうバカなことをしているんじゃないかと不安になったので、「他に何も盗ってないだろうな」と訊くと、カップラーメンも借りたりしていると言う。
 カップラーメンは当時流行りだした1・5倍増量とかにして返しているらしい。わざわざふたつ買って来て、封を開け、乾燥ナルトなどの薬味を足したり、麺を半分増やしたりして、返しているそうだ。


Witchenkare vol.3「僕と川崎さん」(P020〜P029)より引用/写真:徳吉久
http://yoichijerry.tumblr.com/post/22651920579/witchenkare-vol-3-20120508

Vol.8 Coming! 20170401

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