2014/05/17

vol.5寄稿者&作品紹介17 小川たまかさん

「下北沢経済新聞」編集長・小川たまかさんの寄稿作「三軒茶屋 10 years after」。あっ、小川さんのインタビューが、播磨秀史さんの編集した「下北沢ものがたり」に掲載されていますので、みなさまぜひぜひご一読ください! でっ、小川さんってアルヴィン・リー好き!? なんて思ったのはたんに私がそういう年齢だからですがそれはともかく前号では「シモキタウサギ」という、ちょっと癖の強い女子の物語でしたが、今作はガールズ・トーク、でいいのかな。

作品内での三軒茶屋と下北沢の距離感(心情的距離感)の描写は、土地勘があるとリアルに感じます。三茶のほうがまだ、町の変わりっぷりはゆっくりかな。環7と246の周辺には池尻大橋あたりまで、微妙に「むかし」が残っていまして、虫食いで新しいお店が混在しているのです。...それでも、やっぱり着実に変わっているよなぁ。小誌創刊号の拙作には「ツリボリ三軒茶屋」がまだ現役で登場しているし、昨年から今年にかけてFlap Notesdeborah.がなくなったと聞き、私的にはまだ「新しい店」も、さらに世代交替しているのかと。

しかし登場人物の「水村」という男の描かれかたが、私にはとてもおもしろかったです。女子からボロクソに言われてるんですが嫌われてはなく、でっ、水村は弁明できるようなシチュエーションではなく...羨ましいヤツだ。そして内容に深入りして感想を述べると、自分が「そういう年齢」ってことを露呈するだけになりそうですが(前作紹介でも怖じ気づきました)、最近のガールズトークらしきものって、題目はディープかつ広範になっているのに、その語り口はサラっとお上品で、なんか洗練されたよなぁ。

いや、そのむかし、土曜日のお昼に「独占! 女の60分」という番組があったのです。開始当時高校生になったばかりの私は、そこに登場する(水の江瀧子と丹下キヨ子はともかく)清水クーコ、泉アキ、キャシー中島ですら、異次元の猛獣のようにおそろしかったのですが...当時の彼女たちって、いまでいうアラサー(の20代側)だったのか〜、と。すいません(遠い目)。

「そのとき、一回だけ?」
「ううん、全部で三回。一回目にホテルに行ったとき、朝目が覚めて、『これっきりかもしれない、もったいないからもう一回やっておこう』って思って、私から『もう一回しよう』って言ったの」
「発想が男の子みたい。あと一回は?」
「その二週間後ぐらいにデートして、またホテル行った。そのとき、私高校時代からずっと水村のことが好きだったって言ったんだよね。そうしたらびっくりしてた。『嫌われてると思ってた』って言ってた。『鏡子といると、いつも睨むから』って」
「私はそれ、聞いたことなかったな」
「その後、水村は仕事で中国行っちゃってそれっきり。……それで、後から思い出したんだけど、バカみたいな話なんだけど、いい?」
「いいよ。もう充分バカみたいな話だよ」
「私、水村が好きですごく思い詰めてた頃、ちょうどさっき言った夢を見た頃ね、『一回だけでいいから水村とセックスしたい』って祈ったんだよね。で、その後でちょっと思い直して『一回だけだとそれが人生の思い出みたいになっちゃうから、三回だけさせてください、神様』って祈った。で、水村と三回セックスした後でそれを思い出して、神様ってすごいな! って思ったんだよ。でも私さー、なんであのとき、『水村と結婚したいです』ってお願いしなかったんだろう」
「恋愛依存症の沙羅には、セックス三回ぐらいがちょうどいいって神様も思ったんじゃないの」
「恋愛依存症じゃないよ、水村依存症だよ」
「あんた、ストーカーにならなくて良かったね」
「それで、生きてると思う? 水村」
 不意をつかれて鏡子はテレビを見上げた。沙羅も画面を見ている。
 水村は大学を出た後、エンジニアとして建設会社に入社した。鏡子と最後に連絡を取り合ったのは中国の僻地へ唯一の日本人として赴任する前だった。その後、行くことになったと人づてに聞いた。恐らくテレビに映っているあのプラントにいる。


ウィッチンケア第5号「三軒茶屋 10 years after」(P0124〜P129)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/80146586204/witchenkare-5-2014-4-1

Vol.14 Coming! 20240401

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