2014/05/25

vol.5寄稿者&作品紹介34 出門みずよさん

前号には出門みずよ×中野純さん名義で「天の蛇腹(部分)」を寄稿してくださった出門みずよさん。今号ではソロ活動での書き下ろし掌編を掲載しましたが、しかし出門さんの執筆活動はとてもややこしくって...いったいいくつの名を持っているのでしょうか?

たとえばイタクラヨシコ名義でユーモア恋愛小説「ダメじゃん、蟹江クン!」を発表したり、産経新聞朝刊文化欄コラム「断」のレギュラー執筆者だったり。瀧浦ベアトリ名義では噺家を紹介するコラムを書いたり、かつてマガジンハウスが発行していたポルノ雑誌「HEAVEN」に「電気女」という作品を発表していたり(『歓喜まんだら : The very best of「heaven」/藤沢周 編』として書籍化)、さらに板倉克子名義では翻訳も多数...さらにさらにじつはパーカッショニストで...詳しくはここをご参照ください!

「よき日にせよとひとは言う」はかつて高級娼婦として国際的に活躍(?)していた、入間かずみの物語。スイスのエージェントに提出義務のある書類作成のため診察を受けた医師・米原と、「チェーン・オブ・フールズ」(愚か者の鎖)という“大人の交際術”によって数奇な再会を果たし...いやいや、この米原さんがダメな雰囲気、さらにボロボロになっていく感じが淡々と綴られているのですが、なんというか、ちょっとまえに流行語になったリケジョが実験動物でも観察記録に残しているようで、読んでいてお尻がムズムズします。それに比べてかずみさんの、やんわりしたタフさときたら。

再会した米原さんは「ぼくは、つねに自分が得になるように考えてしまうんだ。相手の立ち場に立てないんだ。いつもいつも、そう」と、かずみに自分がダメになった理由を語ります。...そんなこと打ち明けられたってねえ、ですが...しかしある種の賢さ(小狡さ)を備えていて、しかもその自覚があるまま鈍感を装ってそれなりに突っ走ってきちゃった人って、(性別に関係なく)けっこう脆いような気もします。でっ、うろたえ始めると「この私がうろたえている!」みたいにパニック...だからやさしくしてあげましょうよ。頬にキスしたり、ご機嫌伺いしてあげたり、Have a nice day! って元気づけてあげたり。

 セックスを求められない高級娼婦なんて、クビまちがいなし。転職して半年で干されたと思っていたら、それどころか、その秋からかずみの報酬は倍に上がった。

 そのかわり、フィンランド人実業家Pはカズミともっと経済の話をしたいので、「最低でもエコノミストとファイナンシャル・タイムズ、そのほかにもう一種類、アメリカの経済紙誌に目を通すことが望ましい」とダビーナから学習勧告が舞い込んだ。ちなみに、かずみがPとEの双方から最高得点を得た項目は「会話力」「ユーモアのセンス」で、「広い好奇心。とりわけ人間への興味と洞察が深い」との評価を得た。和装ができることも高ポイントだった。ただ、Pからは、「寝起きが悪く、午前中を効率的に使えない」とお目玉も食らっていた。
 とにかくそんな事情で、かずみはもう、あの、ビジネス街でも繁華街でも住宅地でもない東京の真空スポットの緑道をたどり、米原がいれた挽き立てのコーヒーを真っ赤なカップで飲むことはなくなったのである。
 かずみはにわかに多忙となり、Pが日本滞在用に借りている恵比寿のマンションや札幌のホテルに滞在したり、Eが仕事でヨーロッパやアメリカを訪れる際に同伴したりすることが増えた。
 ただ,彼女は一度だけ米原を思い出した。札幌滞在中、ベッドでPが見慣れない遊び道具と変な匂いのローションを使ったせいでかゆみが起き、米原に診てもらうことを考えた。しかし、まもなくその症状がおさまるにつれ、忘れてしまった。

 翌年の六月半ばのことだった。ブラジル人音楽家Eがアメリカとカナダで講演とワークショップを行なうツアーに同行中、Eの妻が心臓病で倒れたとの知らせが入り、Eはツアーを返上してサンパウロにもどることとなった。その報告や、単独行動になってからの経費の件でスイスのダビーナにメールを送ると、返信の最後に、単発アカウントの打診があった。
「売れっ子のカズミへ!
 あのフィンランドの屠殺王は、九月まで日本を訪れない。イレギュラーの仕事を入れる気はないですか?
 ロンドンのミスターLを覚えている? 彼はいまトーキョーに滞在中でまもなくロンドンへもどるが、三日間以上のホームステイはどう?
 さらにそのあとは、ミスターLのご友人が、〝チェーン・オブ・フールズ〟をご所望。スペインへの長旅になるとのことで、期限は決まっていません。
 あなたがもうピルを飲んでいないことは承知のうえでの打診ですが、アジアのインテリは総じてお行儀がよいので、問題ないのでは? 可能ですか?」


ウィッチンケア第5号「よき日にせよとひとは言う」(P230〜P241)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/80146586204/witchenkare-5-2014-4-1

Vol.14 Coming! 20240401

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