2015/05/28

vol.6寄稿者&作品紹介36 美馬亜貴子さん

小誌前号への寄稿作では還暦を迎えた独身女性を主人公に、SNSでの心の綾を描いた美馬亜貴子さん。創作では敢えて自分とは距離のある人物を登場させ物語を組み立てているようで...そこが作品のクールなおもしろさに繋がっている印象を受けます。谷亜ヒロコさんの作品と読み比べると、どちらの主人公も悲惨な目に遭いますが、その質感が微妙に異なる(一人称と三人称の違いだけではない感じがするのです)。泥舟一蓮托生 VS その船、底に穴が空いてますよ、みたいな。...ちなみに、今号寄稿作のタイトルは、昨年美馬さんが制作した<念願のムーンライダーズ本『Ciao! ムーンライダーズ・ブック』>と関連あり。1982年のアルバム「青空百景」収録の「二十世紀鋼鉄の男」にインスパイアされたようで(僕はワックス〜♪)、うーむ、小誌今号の隠れテーマはムーンライダーズ?

マチコさんって20代後半に入ったくらいの設定なのだろうか。まだ経年変化(老化)に怯えている様子はないし、婚活をしているわけでもなさそう...でも<自分が、ブスではないが別段可愛くもない「平均ど真ん中」の女であることを自覚してい>るんだけれども、それでは嫌でどこかで(なにかで)他の人に「勝ちたい」...<気がつく人だけが気がつけばいい>程度でも「勝ちたい」。<街で美人とすれ違うとき、「あの人のかかとより、絶対私のかかとの方がキレイ」とか〜>のくだりを読んで、勉強になりました。そうか〜、女の人は女子会とか楽しそうにやってるけどみんなライバルでもあるんだ〜、みたいな。美容関係の広告、多いわけだよな〜。

さて本作重要課題、ブラジリアンワックス。私は最初これがどうにも実感できず...自らに引き寄せて理解しようとすると、髭剃りかかつて手術時に体験した剃毛しかなく、それじゃ2〜3日でチクチクするじゃない、と。そんな疑問を文学的必然として作者にも投げかけますと、作者もまた私の疑問を理解してきちんと回答してくださったり、文章を推敲してくださったり...しかしそのやりとりって「あの、<リカちゃん人形の「そこ」のようになめらかでつるつる>で、<ほどなくして、マチコに久々のボーイフレンドができた>とありますが、この<ほどなく>ってどのくらいでそのときの「そこ」の状態なんですけど、...あとチクチクし始めると「そこ」は...」みたいな(泣)。

オレってミマさんにセクハラしてないか、と怯えたことを告白します(失礼しました!)。と同時に、ネット上の世界のヴイ・アイ・オー施術見た(日本だけじゃわからなかった疑問氷解)!! ...しっかし、作品内でマチコからこてんぱんに言われているススムですが、たぶん彼は「一番訊いちゃいけないこと」を訊いたんだろうな。「勝った」結果としてあなたとそうなったんで<俺のため>だったら「負け」じゃない、なのか? マチコの敵はススムでもライバルの全女性でもなく自身の自尊心...自尊心のためならVIO晒すくらい...いまの私はこの時点で「本末転倒では?」と思っちゃいますが、でもそれを嘆かず、美馬さんを見習って世の移り変わりをおもしろがります〜!


 わりと落ち着いた気分で施術台の上に横たわった。あらかじめ2〜3センチほどに毛を切られる。下腹部に感じる生温かく、どろっとした感触は想定の範囲内だ。ワックスを塗って、固まったら一気にはがすわけだが、これは実際、思っていたよりもずっとずっと痛かった。21世紀の最先端都市・東京で、信じられないほど原始的な方法で毛を抜いている私──ものの20分ほどではあったが、痛いし、恥ずかしいし、その時間は実際よりもずいぶん長く感じられた。

 しかし。
 終わってみたら、冗談じゃなく、世界が変わった。
 なんだろう、この自信。背筋が伸びる感じ。もちろん他の人には決して見られない部分だけど、「こんなところにまで気を抜かない私」という自意識に、ものすごくアガる。入浴の度に鏡に映して見る「ヴイ・アイ・オー」は、子供の頃に遊んだリカちゃん人形の「そこ」のようになめらかでつるつるだ。非日常どころか非現実の域にまで及んだ自分の変化に、マチコは満足した。これまで行なってきたどんな美容法よりも「やってやった」感がある。きっと誰も、こんな地味なOLが、こんなところの手入れをしているとは思わないだろうな。なんたって〝最先端〟よ。ふふふ。そう思っただけで心が果てしなく高揚する。

ウィッチンケア第6号「二十一世紀鋼鉄の女」(P216〜P221)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/115274087373/6-2015-4-1

cf.
ワカコさんの窓

Vol.14 Coming! 20240401

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