2017/05/02

vol.8寄稿者&作品紹介02 朝井麻由美さん

前号に引き続き、他媒体では読めない作風の一篇を寄稿してくださった朝井麻由美さん。つい先日放送された「荻上チキ・Session-22」での、出演者同士での軽妙なトークを思い出しながら、あらためて「消えない儀式の向こう側」と題された作品を読み直してみました。

主人公は「かなちゃん」という女性で、ほとんど言葉を発しません。でも、描かれているかなちゃんの生活(とくに社会との関わり)を追っていると、決して自閉/引き籠もり系なわけではなく...作者は意識的に<かなちゃんの言葉>を消し、<かなちゃんへの言葉>で物語を動かしています。前号での掲載作「無駄。」を紹介したさい、私は<ハードボイルド風味>と書きましたが、今作にも似た印象を。ただ、そのハードボイルドさはより練り込まれているというか...一読してさらりと流れてしまいそうな文字の連なりの内側に、かなちゃんの〝痛み〟が深く記されているのです。「痛い!」と叫べないほどの痛みを抱えている状態を、淡々と描写している、というか。

たとえば、話の前半に「小林さん」という、ちょっと無神経なタイプの上司が登場してよく喋るのですが、この人の発する言葉に、かなちゃんがいかに深く傷つけられていたのか? けっきょくかなちゃんは会社と自分の関係性を変えることを選びますが、そこには<始めたことはいつも長く続けてきたかなちゃんにとって、初めて続かなかったことだった。>という、平易な言葉だけの一節が。作品全体で、個人的には一番戦慄が走った箇所です。責任感が強く他者への気遣いもできる人間が、自身の意志で始めたことを、自ら放棄せざるを得ない状況に追い込まれる...さらっと書いてあるが、これは、そうとうキツい。

作品内でのかなちゃんと母親との関係。そして因果は巡るものなのか、のちに母親となったかなちゃんと子どもとの関係。無口なかなちゃんの内面に渦巻いているものを、ぜひ多くのかたにも感じとっていただければ。私の<なるべくネタバレなし説明>だけだと、ちょっと暗い物語だと思われてしまいそうなのが心配ですが...そんなことはなく、むしろ朝井さんの優しさや凜々しさ、勇敢さなども伝わってくる作品です!



かなちゃんはじっと押し黙り、〝儀式〟を受けている。抵抗しようとしたこともあったが、なぜかうまく声が出なかった。声が出ず、手も動かず、固まってしまった全身を見つめながら、これも〝刷り込み〟のようなものなのだろうか、と頭の中は妙に冷静だった。動物は生まれたての頃に最初に目に入ったものを親だと認識し、頭に刷り込まれるという。

ウィッチンケア第8号「消えない儀式の向こう側」(P010〜P013)より引用
https://goo.gl/kzPJpT

朝井麻由美さん小誌バックナンバー掲載作品
無駄。」(第7号)
http://amzn.to/1BeVT7Y


Vol.14 Coming! 20240401

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