2017/05/06

vol.8寄稿者&作品紹介06 古川美穂さん

前号に続き書き下ろし小説を寄稿してくれた古川美穂さん。通常はノンフィクションの書き手として活躍されていますが、寄稿作の主人公は女子中学生の七海。彼女の目を通して、父親の再婚相手・バルバラさんと家族との関係性や日常生活が不気味に変化していく様子を描いています。ミステリー的な要素があるので、謎に引っ張られながらストーリー展開を一気に楽しめたりもするのですが、しかし、古川さんは決してそれだけを目的に本作を書いたとも思えず...私には物語の底に横たわっている、ある種の〝薄気味悪さ〟を記したかったのではないかな、と感じました。

うまく言えないのですが、いつのまにか軸をずらされちゃって、気がつくとこちらがはみ出していた、みたいな世の中の雰囲気。七海はバルバラさんの言動に不信感を抱き、少しずつ正体に迫っていくのですが、しかし〝軸ずらし〟は以前から用意周到に進んでいて、お父さんも弟も、近所の人たちもすでに「えっ!?」みたいな...。

無理めのたとえ話をすると、もし私がある日「セブンイレブンとローソンとファミリーマートのコロッケではどれが一番好きですか?」と聞かれたとして、その答えは「コンビニのコロッケは食べないんでわかんないけど、やっぱり町のお肉屋さんで売ってる揚げたてのが好きかな」なんですが、しかし続けて「町のお肉屋さん!? そんなのどこにあるんですか」と聞かれてはじめて、あらま、いまやすでにこの町にお肉屋さんは1軒もなく、コロッケはコンビニでしか買えないものになっていた、みたいな。...まあ、コロッケなら話はかわいいんですが。

物語の終盤に登場する<幼馴染の妙>が気になる存在です。特殊な能力を持っていそうな彼女の目に、バルバラさんはどう映ったのか? そしてエンディングに出現する<飛行機のようなヘリコプターの大群>...このGW前から不穏な国際情勢の話題がメディアを飛び交っていますが、そのせいでしょうか? 私の家の上空を、厚木基地の米軍機がひっきりなしに低空飛行していて、もううるせえのなんのって!



 怖いのはそれだけじゃない。バルバラさんはしょっちゅう深夜に寝室から抜けだしては、納戸で携帯電話をかける。あたしの部屋は納戸のすぐ脇だから、声が漏れ聞こえてくるのだ。そしてバルバラさんが電話で喋る言葉は、あたしが今まで聞いたどんな言語からもまったくかけ離れていた。ろるーん、れるーん、らろーん、と長く舌を巻いた音の後に、ツハッとかトゥヘッとかやたらに促音が入ったり、キチチチチチチチとすごい速さの舌うちみたいなのが聞こえたり、なんだか地球上のものではないような言葉なのだ。
 バルバラさんは絶対ヘンだ。だけどお父さんも航も、何を言っても取り合ってくれない。それどころかバルバラさんの影響は日に日に濃くなっていった。
「身体髪膚これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝の始めなり」

ウィッチンケア第8号「とつくにの母」(P032〜P037)より引用
https://goo.gl/kzPJpT

古川美穂さん小誌バックナンバー掲載作品
夢見る菊蔵の昼と夜」(第7号)
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Vol.14 Coming! 20240401

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