2015/05/12

vol.6寄稿者&作品紹介14 小川たまかさん

小川たまかさんの、小誌への3作目となる寄稿作「南の島のカップル」。前2作は一度作品世界に入り込んでしまうと主人公(やその相手)と一緒に物語を過ごしているような読み心地の作品でしたが、今作はもう少し複雑な構造(と設定)が組み込まれている...って私が野暮な解説するより、ご自身が今作について言及した文章がnoteで公開されていますので、読んだかた、これから読むかたはぜひサブリーダーとして併読してみてください(「作画崩壊」などでは決してなく、すべては私の読解力の至らなさです...)! 

主人公のアサコはモルディブで、日本人客も少なくない宿泊施設の現地案内係(コンシェルジュ?)のような仕事をしています。客や同僚との付き合いを通じて仕事観を自問自答するのですが、自身では<客を観察して、その性格や職業を推測すること。それは自分の頭の中にあるカテゴリに出会った人たちを分類していく作業だ>と考えつつも、仕事を始めた頃には<人ってそんなに単純じゃない>と<ためらいがあった>り。マネージャーのサラは<主観で仕事をすることは、自惚れや傲慢と同意じゃない。自分の主観を持ちつつ、謙虚に淡々と仕事をする。その積み重ねで自分のパターンを増やす>と、「分類すること」へのためらいより「きめ細やかな分類ができるようになること」が自身のキャリアアップに繋がる、という考えで、私は物語の展開を追いつつ、この二人の考えかたを対比するように読みました。

私は就社経験が2年半しかなく個人で仕事を始めてからもいまでいうB to B(Business to Business)的な立ち位置での仕事がほとんどなので、アサコさんとサラさんのお客様に対する考えは想像するしかないか(...いやB to Bでも相手はお客様だったりもするのですけれど)...視点ずらして、私の過去の旅行はほぼ「自分で勝手に行動するだけ」でしたがこういう輩は「あんまりかまわないほうがいい客」に分類できるのか...そういえばホテル勤務の古い友人は「名刺を持ってなかったり名前だけの人がきたときこそ接客は要注意」と言ってた...ってなぜ自問自答の袋小路に陥るのか私。

そして本作を読んでもうひとつ個人的に感じたこと。SNSがあたりまえに登場する作品なのですが、私は海外旅行などもう10数年していませんでして、Facebookやインスタグラムがあたりまえになった時代のそれはむかしとずいぶん違うんだろうな、とこれも想像するしかない。いや、海外旅行中の人との交流は自宅でするんですが...いまは意識不明にでもならないかぎりコミュニティ(過去のコミュニティなんかもリアルタイムで含むところが空恐ろしい!)から隔絶することは難しい世の中なのかなあ、などとも。



 アサコがこのリゾートに呼ばれたのは日本語で日本人とコミュニケーションができるからだけじゃない。同じようなスーツケースを持った若い日本人カップルでも、片方は旅慣れていて、もう一方はリゾートが初めてということもある。その違いを見抜くには、同じ文化で育った者の方が有利だ。それはわかっているけれど……。
「友達として何年も付き合っていくなら、カテゴリに当てはめるなんて良くないのかもね。でも、私たちが彼らにサービスする期間は長くても10日間、短い場合は3、4日間。その短い期間でできるだけのことをするなら、まずは自分の経験に従ってパターンに当てはめることだよ」
 そのパターンから抜け落ちるものだって当然あるでしょう? アサコが聞くとサラはニコニコ笑いながら続けた。
「気付いたときにそれもパターンの一つに加えればいいじゃない。主観で仕事をすることは、自惚れや傲慢と同意じゃない。自分の主観を持ちつつ、謙虚に淡々と仕事をする。その積み重ねで自分のパターンを増やすの」
 こんな南国で、そんなことを悩んでいるのはもったいないよと言われている気がした。ウィンクが得意で若々しく見えるサラだけど、実はアサコの年齢と同じぐらいのキャリアがある。


ウィッチンケア第6号「南の島のカップル」(P086〜P091)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/115274087373/6-2015-4-1

cf.
シモキタウサギ」/「三軒茶屋 10 years after

Vol.14 Coming! 20240401

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