2015/05/15

vol.6寄稿者&作品紹介19 我妻俊樹さん

前号掲載作では「我妻さん、まさか社会派路線!?」という感じでタモガミ氏を退治した我妻俊樹さん。作家として「怪」「奇」「幽」「恐」なんて文字が似合う作品を数々発表していますが、小誌ではずっと、それらの文字の比重が低い(比重からより自由な)作品を発表してくださっています。今回の「イルミネ」は、作品の風合いとしては創刊号への掲載作「雨傘は雨の生徒」に似ている、という印象を持ちました。両作とも内容を「●●が○○して〜」みたいに要約/説明することがむずかしい(というか意味がない!?)コンテンツなのですが、描かれた風景のトーンが、近く感じられたのかも。

今作の主人公の「わたし」は元気なようです。この「わたし」が誰(何!?)なのかは語られていませんが、とにかく冬から春という季節の流れが嫌ではないらしく、<白抜きでトナカイと雪の柄がある>厚手の靴下を履いて外出します。なんだか桜の開花を待ちわびる、ごくふつうの日本人みたいな輩だ、「わたし」。<ひなまつりはとうに過ぎてい>て、<四月、日陰がふとってきた>とありますので、関東ならお花見シーズン...もうちょっと薄手の靴下を、あらたに買っても気持ちよさそうです。<わたしは元気だ。寒さを寒さとして、つらさをつらさとして受け止めかねている。寒いけど、寒くないね! わたしは心でつぶやいた>...負けず嫌いでもあるな、「わたし」。

我妻さんとは3月の終わり、かとうちあきさんが開いた「お店のようなもの」にご一緒しました(靴下にトナカイはいなかったと思う...)。「ウィッチンケア第6号試読会のようなもの」のためだったのですが、近くの横浜橋商店街で一緒に惣菜を選んだり...楽しかったな。微妙に曇りの日だったのですが、ブルーライン「阪東橋駅」で降りると雨がぱらぱら落ちてきまして、傘持ってくればよかったと後悔している私に、ちゃんと傘を持ってきていた我妻さんはさり気なく差し掛けてくれました。紡ぎ出す作品はおっかないのに、なんて心優しいかたなのでしょうか!

そんな我妻さんの現時点での最新著書は、今年2月末に発行された「FKB怪幽録 奇々耳草紙」 (竹書房文庫)。紹介文には<独自の怪談を紡ぎ続ける我妻俊樹の新シリーズ第一弾。夜中に突然泊まりにきた友人の不可解な話と衝撃の事実「イキシチニヒ」、バイト先のコンビニによく来る美人女性、ある夜道端で会ったら汚れた花瓶を渡そうとしてくる…「花瓶」〜後略〜>とあり、67編が収録されています。みなさま、ぜひご一読ください。



 外はけっこう冷え込んでいるけれど、わたしは元気だ。寒さを寒さとして、つらさをつらさとして受け止めかねている。寒いけど、寒くないね! わたしは心でつぶやいた。からだは震えていた。薄着だったのだ。でもわたしの心はひろがって、すれ違う人がみんなわたしの心を通り抜ける。わたしの心の声を聞き、びくっと耳をかたむける者もいた。おしゃべりなくらいだ。犬を連れている爺さんだって、さっそうと中を通り過ぎていった。柴犬だ。わたしはポストの前に立つ。かばんのポケットを探ると、葉書が二枚出てくる。ずっと出しそびれていた年賀状の返信。出してしまった年賀状のことを、わたしは時々思い出す。わたしは郵便物になりたいし、郵便制度を最初から最後まで、内側から眺めてみたい。それは小説の登場人物になりたいことに似た欲望だ。封書は目かくしされている。だから葉書がいい。年賀状以外の葉書は、もう何十年も出していない気がする。

ウィッチンケア第6号「イルミネ」(P116〜P119)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/115274087373/6-2015-4-1

cf.
雨傘は雨の生徒」/「腐葉土の底」/「たたずんだり」/「裸足の愛」/「インテリ絶体絶命

Vol.14 Coming! 20240401

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